この照らす日月の下は……
34
「せっかくキラが戻ってきてくれたのに……」
まさかお邪魔虫まで一緒だとは思わなかった。アスランは忌々しげにそうつぶやく。
おかげで、今はもうキラを独占することは出来ない。距離を縮めようとすれば即座に邪魔が入るのだ。
だが、キラにはこの距離が安心できるらしい。以前より笑顔を浮かべていることが増えた。
それが気に入らない。
「キラは俺だけを見ていればいいのに」
小さな声でそう付け加えた。
だが、事実は違う。
キラが自然な笑みを向けるのは、ハルマやカリダ。そして最近居着いてしまったカナードだけだ。他にもいるのかもしれないが、自分は知らない。
逆に、自分には微妙な蝦夷か見せてくれないのだ。
それが自分がキラを束縛しているせいだとは全く考えていない。むしろ、他の人間が余計なことを吹き込んでいるからだ、と考えるのがアスランだ。
「どうすればいいのかな」
口の中だけでそうつぶやく。
自分もまだ誰かの庇護を受けなければいけない子どもだ。その事実がもどかしい。
「母上も、これに関しては僕の味方じゃないし」
むしろこんなことを考えていると知られれば、強引にでも引き離されてしまうだろう。
それだけは困る。
今だって、教室でしかキラの隣を確保できないのだ。それ以外はすべてあの気に入らない男が邪魔をしてくれる。
何で、またあの男が月に来たのか。
家の事情だ、とキラは言っていた。それならば別の場所でも良かったのではないか。
もっとも、ハルマ達が受け入れてしまった以上、これも文句は言えない。
本当に八方ふさがりだ、とため息をつく。
「どうすればいいんだろうな」
いくら考えても答えは出ない。もっと色々と勉強すれば答えを見つけられるのだろうか。それとも、ずっとこのままなのか。
わからないまま、アスランはまた一つため息をついた。
「ザラ議員とはそのような方なのか?」
茶飲み話にしては少しハードな内容だね、とラウは苦笑を浮かべる。
「それでも君は知っておきたいのだろう?」
優雅な仕草でカップをソーサーに戻しながら相手が言い返してきた。
「もっとも、その気質は大なり小なり、プラントの人間に共通しているものだがね。あの親子はそれが特に激しい」
パトリックの方はレノアだからまだいい。彼女がうまくコントロールしてくれている。
しかし、アスランはどうだろう。そう彼は続けた。
「おさなければ幼いほど、自制心が効かないからね」
この言葉にラウは頭を抱えたくなる。
「……対策はとっていると思うが……」
問題はキラがどこまで耐えられるかではないか。
必要だとはわかっていても、こういうときにそばにいられないのは辛い。自分がそばにいれば少しは盾になれるのに、とわかっているからだ。
せめてあの男がまだアメノミハシラに残っていれば安心できただろう。しかし、自分と同じ時期に大西洋連合へと向かっている。
そうなれば、残るはカナードだ。
あの子で大丈夫なのか。考えるだけで不安だ。
救いがあるとすれば、カナードもキラが大好きなことだろう。
キラのためならばカナードは実力以上の力を出せるはず。それでも、一人でどこまで出来るか。
「あのこと同じ年の子がいないのはきついね」
ため息とともにそうつぶやく。
「あの子も年下だしね」
彼もため息とともに言葉を吐き出す。
「まぁ、使える手駒がないわけではない。ザラ家と近しくなりたいものは多いからね」
その言葉の意味がわからないはずがない。
「あの子に危害が及ばないなら」
他はどうでもいい。そう考えてしまうのは、自分もキラに依存しているからか。
「当然だよ。あの人の子どもだからね」
それは目の前の男も同じか。そう考えながらもうなずき返していた。